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世界保健機関が発表する世界平均寿命のランキングによると、シンガポールはここ近年ではトップ3に入る健康大国となっています。シンガポールと言えば、金融で栄えた近代国家というイメージしか浮かばないので、ちょっと意外な気がしませんか?
シンガポールとマレーシアは隣り合わせで、気候も文化もそれほど変わらないはずなのに、どうしてシンガポールだけが平均寿命が伸びたのか?ちなみにマレーシアの男女の平均寿命は75歳で、シンガポールの82際に比べてかなりの差があります。
シンガポールは平均寿命のトップスリーに入る日本と比べて、気候、食生活、環境も違います。同じアジア人とはいっても、シンガポールは国民の75%が華人。日本は当然ですが、ほとんどが日本人。
華人と日本人ではやはり食生活も考え方が違います。残りの25%はマレー系、インド系と西欧人。シンガポールは多文化、多人種なのに 、多文化の有無に関係なく国全体の平均寿命が高いのはどうしてか?文化の違いに影響を受けずに、国民全体が健康でいる要因がどこかにあるはずです。
特徴
私自身が日本育ちの華人のため、日本と中国の両方の文化の違いがよくわかります。子供の頃はよく母親が食事の時に「この料理は体のどこどこによく効くよ、これを食べると健康に良いよ」と説明してくれました。あの頃は半信半疑で聞いていました。
魚の眼を食べれば目が良くなる、レバーを食べれば肝臓にいいとかそんな感じの説明です。ほとんど根拠もない冗談のような説明です。
しかし、大人になって健康に興味を持ち始めてからです、母親のあの頃の説明が理解できるようになったのは。
なので、シンガポールの健康の秘訣は国全体の75%を占める華人の食生活と生活スタイルにあるのではないかと思います。だったら、華人がたくさんいる国なら長寿なのかといえば、そうではありませんよね。それなら、中国が平均寿命でシンガポールよりも上であっていいはずです。
しかし、実際は違います。ならば、華人という部分にだけスポットを当てるのではなく、シンガポールという国自体に他国と違う何かしらの取り組みがあるのではないかという点にも注目すべきでしょう。
例えば、文化、人種に関係ない部分なら、気候面が挙げられます。小国だから、政治に柔軟性もあるはず。新しい取り組みに対する決定も実行もきっとスピーディーでしょう。
おそらく、政府の介入のおかげもあって、国民の健康に対する意識が変わり、以前よりも高くなっているのだと思います。
食生活
薬膳スープ
シンガポールの75%を占める華人の食習慣を見習う点といえば、間違いなく薬膳スープを挙げます。もちろん、これはシンガポールに限ったことではありません。中国、香港でも同じことです。
中国または香港の食文化では医食同源という考え方が食事のベースになっています。栄養があり、健康によいとされる食材を使っています。特に香辛料、しょうが、にんにく、薬草など体を温める食材が多く使われています。
自分が子供の頃、母が作るスープには、鶏がらスープにクコの実、干し椎茸、干しエビ、しょうがなどがよく入っていました。風邪を引くと、名前が全くわからない薬草が入ったスープが出てきます。何の薬草か知りませんが、見た目から健康に良さそうなのは子供でもわかりました。
入っている薬草は体調によって違ってきます。すべての食材にはそれぞれの効能があるので、体調に合わせて違う食材を使うのも当然だと思います。
妻が妊娠すれば「妊娠中はこの薬草を使った薬膳スープ、産後はまた違った薬草を使った薬膳スープを飲みなさい」といった感じで日本人の私の妻にも有無も言わさず、母が作った薬膳スープを飲まされました。妻もあの頃は半信半疑でした。母親に聞けばとにかく、「今は騙されたと思って飲みなさい!飲み続けることで、老後にその効果がわかるのよ。」と言われます。
薬膳スープの良さを知ってもらうために書こうと思ったら1ページでは足りるはずがないので書きません。と言うか、私自身もわかりません。「薬膳スープは体を温める、体調を整えてくれるので健康に良い」と言う事実だけを受け入れています。
冷房が効いているオヒィスだから、温かい薬膳スープ、お湯を飲む
シンガポールは外が暑いので、室内は冷房をよく効かせています。そのため、温暖な国でありながら体が冷える環境にいます。そこに、氷が入った冷たい飲み物でも飲もうものなら余計に体を冷やします。
中国伝統医学では「冷たいものを飲むと胃腸の機能が低下する」という考え方があります。そういう考えがあるため、オフィスやレストランでは常温や温かい水を飲む人が多いのです。
ランチでも香辛料をいっぱい使った漢方スープで、シンガポール、マレーシア名物の「肉骨茶(バクテー)」が大人気。私自身は肉は健康上良いと思っていないので避け、こしょう、にんにくが効いている熱々のスープだけを飲みます。
シンガポール人の健康寿命が高い理由は冷たい飲み物を避け、温かい薬膳スープとお湯を飲む習慣が1番にあるのだと思います。
陰と陽、気候が温暖なので体を冷やすものも食べる
中国文化において、食材には陰と陽の2つの性質があるとされています。もちろん、米のように陰と陽のどちらでもない、中性の食材もあります。中国文化の家庭で育った私は子供の頃からよく「これを食べ過ぎると体が熱くなる、あれを食べ過ぎると体が冷えるよ」と母から言われてきました。
簡単に言えば陽は体を温めるもの、陰は冷やすものと思えばいいでしょう。何を基準にこの食材は体を温めるのか、あるいは冷やすのかさっぱりわかりません。ましてや「どうして今、温めてはいけないのか、または冷やしてはいけないのか?」ということもわかりません。
今では免疫力を上げるには体を温めることが大事だということはわかります。しかし、「どうして陽のものを食べ過ぎてはいけないのか?」がちょっとわかりづらいところです。
体を温めることによって体に与える良い影響と、逆に冷やすことで得られる良い影響もあるのです。しかし、温め過ぎ、冷やし過ぎのどちらも体のバランスを崩すため、よくありません。温めすぎがいけないのは、身体を興奮させ、精神を奮い立たせることになるからです。
バランスよく食事をとることが健康に良いと言われていますが、食べ物の陰と陽という概念からみても理にかなっています。
地域に合わせて食べる
シンガポールは一年中、気候が温暖。日本みたいに四季がないので、季節の食べ物が体に良いという考え方がわかりづらいかもしれません。
夏は暑いので体を冷やすスイカ、キュウリなど、水分が多い野菜や果物が多いですよね。逆に冬はカボチャなど固く、水分の少ないものが多く、これらは体を温めてくれます。旬のものを食べることが実に理にかなっているのが納得しませんか?
南国フルーツは体を冷やすので、温暖な南国で食べるから体に良いのです。これを寒い国で食べると余計に体を冷やことになるため、そこの地域にあるものを食べることをオススメします。
中でも特にオススメなのが、南国ならではの飲み物、ココナツジュース!
ココナツジュースはミネラルが豊富なので、暑さで失われた水分を補給するの最適な飲み物です。しかも、スポーツドリンクに比べてカロリーが低く、安心して飲めます。一年中採れるのもうれしいですよね。
生活スタイル
今こそ健康大国ですが、シンガポールは少し前までは肥満大国と知られていました。その原因は外食に依存していることと、学業優先のために運度に費やす時間が削られていたこと。金融で栄えたこともあり、一年中座ってするオフィスワークが多いのも原因の1つでしょう。
しかし、その後は国の政策もあって、街の至ることころに公共集合住宅、公園には運動施設が整うようになりました。そのおかげもあって国民が運動不足の解消に興味を持ち始めました。今では健康への意識が高くなり、街の至ることころに涼しくなる18時以降に、ジョギングをするビジネスマンを多く見かけるようになっています。
面白いのは、仕事終わりにオフィス街の野外でみんながマットをひいて思い思いに、ヨガ、筋トレ、ピラテスなどをして汗を流していることです。もちろん、外は暑いので室内のフィットネスクラブで運動する人も多いようです。
太極拳
そして、華人がする運動で忘れていけないのが、太極拳!
中国本土が有名ですが、ここシンガポールでも涼しい朝に公園の広場で、太極拳で体を動かしているグループをよく見かけます。太極拳が健康に良いとされていますが、簡単にまとめると次の3つの効果が期待されています。
- 全身を使った有酸素運動:太極拳はゆっくりと体を動かしながら、全身の筋肉を使います。意識的に腹式呼吸を行うので、有酸素運動の役割も果たしています。さらに、全身にあるツボを刺激し、血液の流れを良くします。
- 深呼吸をすることで心身ともにリフレッシュ:太極拳は大きく深呼吸をしながら体を動かします。多くの酸素を取り入れながら体を動かすことは心地よいもの。心も体もリフレッシュされている感じがします。
- 新陳代謝を高める:太極拳はゆっくりした動きのため、ほとんどカロリーを消費しないと思っているかもしれません。しかし、それは違います。意外なことに、ジョギングと同じだけのカロリーを消費すると言われています。ジョギングの方がつらそうに思いますよね。つまり、ダイエットしようとジョギングをしている人は、太極拳をしても同じだけの効果が得られるということ。
太極拳は室内でも気軽にできるし、ジョギングよりも抵抗なく毎日できる分、太極拳の方がダイエットには適していると言えます。
健康に対して意識を持つと、普段の生活スタイルがガラッと変わるのがよくわかります。体を動かした方が良いと思うようになれば、仕事が忙しく時間が少なくても、なんとかやりくりして出勤前に公園で太極拳。または仕事帰りに、オフィスの近くで運動をして汗を流してから帰宅しようと考えるようになりなります。
環境
東南アジアのひとつであるシンガポールに限ったことではありませんが、気候が温暖なところも健康によい影響を及ぼしています。
- 温暖な気候は身体を温かく保ち、血流を良くしてくれる
- 血液の流れがよくなると、体はリラックスした状態になる
- 体がリラックスすれば体だけではなく、気持ちもゆったりする
- 心がおおらかになるため、ストレス性の病気は減る
- 心がおおらかであれば、他人にも優しくなれる
- 人間関係が良好になれば、相手も自分も幸せを感じるようなる
このように、少し飛躍しているかもしれませんが、気候が温暖だと健康への良い連鎖反応が起きます。
私もヨーロッパの冬はとても寒炒め、以前に痛めた膝がうずきます。空気は乾燥しているので、皮膚が弱い私や娘は肌が荒れます。
シンガポールだけではありませんが、東南アジアに行くと気温が温暖なおかげで関節に痛みが感じなくなるし、皮膚荒れも消えて、つるつるになるのでありがたいです。
もっとも、温暖と言っても暑過ぎる日だってあります。それでも、南国の人たちは日陰を歩くなどして、上手に暑さを回避しているようです。
政府の取り組み
同じような環境、生活習慣を持っている隣国に比べて健康なシンガポール。国民の健康に対する意識が高いだろうことは想像がつきます。では、その意識が高くなるにも何かしらのきっかけがあるはずです。そのきっかけの1つとして、シンガポールでは政府が国民の健康に関心を持っていることが挙げられます。
国民の健康に対する意識が変わったきっかけとなった、政府がとった政策を見てみましょう。
お酒とタバコに厳しい、税金が高い
国民の飲酒、喫煙率を下げるために、政府はアルコール類やタバコには高い税金を課しています。酒類はアルコール度数が上がるほど税率が上がるようにし、タバコでは国外からの持ち込みにも厳しく、1箱あたり数ドル払わせています。
お酒とタバコに高い税金を課すのはシンガポールに限ったことではありません。一般的にお酒とタバコは日常必需品ではなく、贅沢品とみなされています。そのため、健康を害するリスクがあるお酒とタバコの税率を上げることに、政府としては何も問題ないと考えています。国民が反論する余地はありません。
このようにお酒とタバコの税率を上げることで、政府は国民の消費意欲が下がることを期待しています。富裕層はおそらく税率を上げたところで別に痛くもかゆくもないでしょうが、一般市民なら買うのにためらうはずです。
その結果、お酒とタバコの消費が全体的に減ります。消費が減れば、健康を害するリスクも減る。とてもシンプルな政策ですが、効果は出ているでしょう。
タバコの健康被害をアピール
子供がタバコを吸い始めたら親はどうするか?「タバコは百害あって一利なし」と言葉で子供に伝えても心に響きません。口で言っても無駄なら見せるのが1番です。
以前にこんな記事で読んだことがあります。「子供にタバコを止めるよう、何度言っても止めない。だったら薬物中毒者、タバコ常習者たちが更生するのを手伝うサークルに連れて行って見せよう。彼らがタバコの吸い過ぎで受けた被害を見せれば、考えも変わるだろう。」そう思い立った母親が実際に行動に移し、子供を改心させた記事でした。
これは家族単位でのお話です。しかし、シンガポールでは国家単位でしています。
禁煙のキャンペーンにタバコのパッケージに、喫煙による癌や壊疽などの健康被害の症例が写真として載せてあります。「タバコはほどほどに」と訴えるよりも、写真で見せた方が説得力はあります。「タバコを吸い続けたら自分も将来こうなるかもしれない」と思うはずです。
排気ガスの規制、企業と政府の取り組み
排気ガスや工業廃棄物による健康への悪影響は説明するまでもありませんよね。排気ガスの規制、工場に対する規制は国絡みで取り組まないと大変な事になります。日本各地で起きた公害を見れば、放っておくとどんな結果を招くのかがわかります。
過去に他国で起きた公害から学んだシンガポールは、環境汚染を防ぐために車と工場の規制に取り組んできました。
- 工場の建設にあたって、工場から居住地区への悪影響を避けるために、環境に関する手続きを受ける事になっています。これらの手続きは排気ガスの規制や、環境に負担の少ない燃料などが指定されています。
- 自動車の排気ガスの量を減らすために実行していることは2つ。
- まずは都心部への車の流入を制限:この政策はシンガポールに限ったことでありません。中国やフランスでも車の走らせてよい曜日を設けるなどして、車の走行台数を減らしています。
- 一人あたりの車の所有台数を制限:そもそも、移動に公共の交通手段が使えれば車を所有する必要がありません。ましてや、一家に二台、三台と持つ必要があるのかどうか疑問です。もちろん、富裕層なら交通手段としてではなく趣味やコレクションとして何台も所有したい人もいるはず。これも、タバコやお酒と同じく贅沢品という位置づけでしょう。
まとめ
シンガポール国民の長生きの秘訣を簡単にまとめると以下の6つになります。
- 薬膳スープ、お湯などで体を温める
- 地域でとれる食物をとる
- 温暖な気候、心がおおらか
- 太極拳
- 政府によるお酒、タバコに対する意識改善
- 政府の介入による環境汚染の規制
こうして見ると、ベースとなっている原理はこのサイトで書いている事と同じです。体を温める、害となる物質を排除する、体を動かす。
ただ、そのやり方が「薬膳スープで体を温める、太極拳で体を動かす、政府による介入で環境汚染の制限、意識改善」と方法はシンガポール特有なものになっています。
個人的には薬膳スープと太極拳は住んでいる地域に関係なくできるので、オススメです。私自身がヨーロッパに住んでいますが、積極的に実行しています。
薬膳スープの作り方は簡単。ネットで作り方はいくらでも見つかります。材料も中国食品店で手に入るので、家庭で気軽に作れます。
太極拳もYoutubeでたくさん紹介されているので、わざわざ太極拳教室に通う必要もありません。全部の動きを覚えるのに時間がかかりますが、いったん覚えれば1日10分ぐらいあればできます。
どうですか?シンガポールの長生きの秘訣が実はシンプルだということがわかりましたか?